アンティークタイルの歴史
アンティークタイルの歴史と、タイルの魅力についてご紹介します。
タイルの歴史
タイルの歴史は古く、紀元前2700年にはエジプトの第3王朝、ネチェルケト・ジェセル王が建てたピラミッドに、砂漠の土から作られた、王家の象徴である青い釉のタイルが飾られていたと言われています。紀元前のエジプトで人口宝石として装飾品等も作られていたそうです。
語源はラテン語のテグラ(tegula)粘土製の屋根板という意味の言葉と、フランス語のチュイール(tuile)貼る、瓦という意味の言葉からと言われています。なので、英語のタイル(tile)は一般的な壁や床材として保護や装飾用に張りつける板の他に、瓦という意味もあったりします。
ヨーロッパタイルでの歴史は、初期はガラス張りのレンガタイルが主流でした。7世紀頃から中世イスラムでモザイクタイルがモスクの装飾に用いられ、ターコイズブルーの美しいタイルは10世紀~11世紀頃に人気でした。16~17世紀オスマン帝国下では、複雑な幾何学模様や文様が宮殿等に施され、洗練された美しい建物が多く見られました。
8~15世紀に栄えたイスパノ・モレスク様式のクエンカタイルは、イスラム文化らしい幾何学模様。イスパノ・モレスク様式とは、イスラム教支配下にあったスペインで生まれた芸術様式です。クエンカ手法と呼ばれる、型で紋様を残して他の部分を押し込み、押し込んだ部分に色釉を詰めて焼成します。凹凸感がある幾何学模様のタイルで、アルハンブラ宮殿等を彩っています。後のマジョリカ焼きと呼ばれるイギリスヴィクトリアンタイルのチューブライニング技法はこの手法を応用しています。
イスラムイベリアとビザンチンとオスマン帝国を通じ、ヨーロッパにもタイルが広がっていきました。中世ヨーロッパのタイルは複数色の粘土を形成してから焼き付け作られていました。宗教的な場面が描かれたり、教会の床に碑文を作成するために使用されたりしました。
15世紀、多彩な色付けが可能になりました。ルネサンス期に、錫釉の白とガラスの艶が美しいファイアンス焼きの技術でタイルが作られ、色付きの土に白い釉を塗って真っ白い陶器にし、その上から色付けする事で美しい発色が可能になりました。ファイアンス焼きはマジョルカ島を経由してイタリア、スペインへと伝わったハンドペイントと色合いが美しいマジョリカ焼き(マヨリカ焼き)のタイルや、16世紀初頭オランダの、白地に青の釉薬で描かれる、中国や日本に影響を受けたモチーフを取り入れたデルフト焼きタイルに発展しました。
16世紀後半にはイギリス、フランスにもデルフト様式のタイルが作られ出しました。17世紀のデルフトタイルは縁飾りで中央のモチーフを囲むメダリヨンデザインや、正方形に4枚組むことで成立する4隅と中央に模様があるコーナー・モチーフが特徴。人物や動物、花や風景、聖書の場面等が描かれました。18世紀後半にはウェッジウッドなどが開発した新しい粘土素地を使ったクリームウェアが開発され、19世紀には高温で焼き自然にガラス化した光沢が出るストーンウェアが主流となりました。
イギリスのタイル
イギリスでは16世紀後半からブリストルやリヴァプール、ロンドンで盛んにタイルが生産されました。19世紀には量産技術により、教会や公共建築だけでなく、一般家庭にもタイル張りが普及していきました。
ヴィクトリアン時代にはゴシック・リバイバルに伴いタイルワークがアートとしても取り入れられ、1870年代、イギリスでの耽美主義運動によりファイアンス焼きのよさが見直され、ウエッジウッド(WEDGWOOD)やミントン(MINTON)といった大手の製陶業者がファイアンス焼のタイルをマジョリカ焼きと称し、再び製造しました。
ヴィクトリアンタイルは、パターンを並べて模様を作り出すデザインが多い象嵌タイルや銅板転写タイル、浮き彫りモチーフの立体感と手塗りの色釉のグラデーションや奥行き、ガラスのうるみが美しい、輪郭線を盛上げるチューブライニング・タイル等があります。
19世紀後半では、アーツアンドクラフツに参加していたイギリスの芸術家ウィリアム・ド・モーガン(William De Morgan)の手描き転写タイルが有名。
イギリスで製造された手作りのヴィクトリアンタイルは製造期間が短く、その美しさから希少で価値が高く、現在でもアンティークタイルとして人気となっています。
フランスのタイル
陶器タイル
フランスでは16世紀後半からファイアンス焼きタイルが伝わり、生産されました。中心地はカンペールで、他にルーアン、ストラスブール、リュネヴィルなどで生産され、プチシャトーのバスルーム等を装飾しました。また、1670年ルイ14世が建造したトリアノン宮殿は当初デルフトタイルで外装が飾られていました。
フランスタイルはメーカーマークが無い物が多く、見分けが難しいとされています。フランス革命の後、陶器タイルの生産は衰退していきました。
英語でマジョリカ焼きと呼ばれるタイルは、フランスではでこぼこという意味のバルボティーヌ(Barbotine)と呼ばれ、主にロレーヌ地方で食器類が作られました。19世紀後半から20世紀前半のアールヌーヴォーの時代に特に人気となりました。
トメットタイル
トメットタイル(Tomette)は正方形や六角形のテラコッタ製タイルで、床材として使われます。プロヴァンスでは赤土にエナメル質の土を混ぜて作られ、六角形で作られています。ボルドーやブルゴーニュでは正方形のタイルが見られます。
セメントタイル
1850年、白セメントや大理石、砂などが混ざった粉と着色層を油圧プレスで形成する、セメントタイル、フランス語でカロー・シマン(carreau ciment)の技術が開発されました。1867年のパリ万国博覧会で、パリの会社Garret, Rivet et Cieが石や大理石に代わるタイルとして発表され、各地工場で生産されました。基本的に20㎝角ですが、10㎝角~40㎝角と様々なサイズも作られました。
中世的なネオゴシック模様の、幾何学模様や植物模様が流行しました。タイルを連続させて模様を作る柄が多く、2枚、4枚、9枚で柄を作り上げるデザインがありました。また、ボーダー柄やコーナー柄を組み合わせて、部屋全体を覆うカーペットを模した柄も一般的でした。
製法は、最初に白セメント、白大理石の粉、砂、顔料を合わせ、銅型に注ぎます。色ごとに分かれた型は、異なる色で満たします。柄の層は2~5mmと厚く、表面が多少擦れても柄が保たれます。次に灰色のセメントと砂の第2層を注ぎ、余分な水分を吸収します。最後に灰色のモルタルで型を満たします。全体を強く圧縮する液圧プレスに入れ、型から取り出し乾燥、24時間浸漬しセメントを硬化させ、湿った部屋に28日間保管し、完成となります。
スペインではmosaico hidráulico(油圧モザイク)と呼ばれ、バルセロナにメーカーが作られたのを始め、各地に工場が作られました。
フランスでは美しいデザインが多く生まれ、地下鉄がタイル張りだったりと、生活の中に好んで取り入れられています。
タイルの種類
タイルの形
日本では四角い陶磁器製のタイルを思い浮かべる事が多いですが、ヨーロッパでは正方形や長方形はもちろん、ヘキサゴン(六角形)等の多角形やモロッカン型(モロッコ風模様型)、複雑なモザイクタイル、小石を敷き詰めた様な小石タイル、ストーブを飾るストーブタイル等があります。
材質
材質は一般的にはセラミック(アーゼンウェア、テラコッタ、ストーンウェア、ポースリン)ですが、ガラス、コルク、コンクリートや大理石、花崗岩等の材料も使用されたものが製造されています。
耐熱、耐水性に優れ、タイルそのものの材質の変化が少ない事から、長年劣化しにくい素材として外壁を飾ったり。床には丈夫な陶器や石、セメントタイル。天井タイルには軽くて装飾的なもの。衛生的なので玄関やキッチン、バスルームにも好まれています。
柄の種類
1枚で柄が完結するものは、それ1枚で十分な美しさがあります。メダリオン柄のデフルトタイルや、アールヌーヴォーな花等のヴィクトリアンタイル。無地のタイルと組み合わせたり、ポイントとして取り入れたり、もちろん柄を並べて飾られます。
繋げて柄になるものは、1枚のタイルをそのまま並べたり向きを変えながらつなげたりして植物文様や幾何学模様になるデザイン、異なる柄を並べて1枚の大きな柄を作り上げるデザインがあります。
スペイン、ポルトガルのアズレージョ(Azulejos)は15世紀から作られている、装飾兼温度、湿度調節の装飾タイルで、大きな絵画の様に室内外を飾ります。
はるか昔から人々の生活と共にあったタイル。玄関や廊下、キッチンやバスルーム、壁面にと好きな所からタイルを取り入れてみて、新たな魅力を楽しんでみて下さい。
関連商品
アルフレッド・ミーキン製ヴィクトリアンマジョリカタイル
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アンティークタイルa六角形
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